いつも、雨
社会的地位を得た碧生は、肩書きを武器に、新たな史料をかき集めて研究を進め、論文を発表し続けている。


「試験の採点も終わったしね。お義母さんは瑠璃子とお買い物に出掛けられたよ。……どうかした?何か、しんどいこと、あった?」


……どうして、バレちゃうのかしら。


百合子は、苦笑して……それから、碧生にしがみついた。



碧生に嘘は通用しない。

でも、今さら、泉との関係をわざわざ打ち明けることは、あまりにも無神経だろう。



百合子は、余計なことは言わないように言葉を選んで、心情を吐露した。

「……ん。あった。でも、わたくし、……ホッとしたみたい。肩の荷がおろせたのかしら。」



それだけで充分だった。


状況を察知した碧生に、ぎゅーっと強く抱きしめられて……百合子は、また泣きたくなってしまった。


「……お疲れさん。……じゃあ、さ、せっかくの夏休みだし、避暑にでも行こうか。夫婦水入らずでさ、どこかでゆっくり過ごさない?」


碧生の提案に、百合子は改めて気づいた。


……泉さんから、いつ、わたくしが呼び出されるかわからないから……今まで気を遣って、遠慮してくれてたのかしら……。


すん……と、百合子は鼻をすすってから、明るい声色を作った。


「うれしいわ。2人でのんびりしましょう。……でも、いいの?お勉強……夏休みは、論文を書き上げたいって仰ってませんでした?」

「書くよ。でも、俺には、百合子を独り占めするほうが、大事。……子ども達も、やすまっさんらも抜きで、2人だけで過ごそう。」



……独り占めという言葉が、百合子の胸に突き刺さる。



やっぱり、何もかも、わかってらっしゃったのね……。



「ありがとう。碧生くん。……うれしいわ。うれしくて、幸せで……涙が出ちゃう……。」


「……うん。泣いていいよ。我慢する必要ない。……俺も、もう、我慢しないから。……やすまっさんが由未にべったりなの、呆れてたけどさ……ほんとは、俺も、あんな風に昼も夜も、百合子と離れたくないんだ。……これから、馬鹿みたいに、百合子を束縛していい?」


軽口でも冗談でもないことは、顔を見なくてもわかった。


うれしさと、これまでの罪悪感が、百合子の中から涙と嗚咽になって溢れ出た。


泣きながら、百合子は、何度もうなずいた。


言葉にはならないけれど、碧生にはちゃんと伝わったらしい。
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