いつも、雨

「で?百合子のおかんとは、再婚せんのけ?」


場所を移し、程よく酒がまわってから、泉が質問した。


「……一応プロポーズはしましたが、あっさりふられましたよ。」


要人の返答を泉は鼻で笑った。


「一応って!そらあかんわ。……どうせ、指輪とか花とか、かっこつけて、すべってんろ。阿呆やなあ。問答無用で、攫ってしもたらええのに。」

「誘拐しろ、と?……まあ、でも、正解。しょーりくんの言うとおりですよ。……俺が、しょーりくんなら、結果はまた違ったんでしょうね。」


要人はふところのお守りを弄って、ため息をついた。



「まあ、歳とったら、臆病になるのはわかるけどな。……自分の場合は、社長やから、誘拐するわけにもいかんか。……でも、潮時ちゃうんけ?そろそろ、社長、引退せえへんの?」


歯に絹きせぬ泉の言葉に、障子一枚隔てた部屋で待機していた秘書の原は息をのんだ。

……誰しも、そろそろ……と思っているからこそ、社内ではタブーとなっている問題だ。

 
さすがに要人も、苦笑するしかなかった。


「後継者をね、育てたいんですよ。」

「ええ歳の息子がおるんちゃうん?」

「……息子には継がせるつもりはありません。……今は、孫の婿を後継者にと考えています。」




……わかっていても……改めてうかがうと……堪えるな……。

原は、はっきりと後継者から除外された義人のことを思い、胸を痛めた。



「ふぅん。骨肉の争いっちゅうやつけ?……て、孫ちゃうんや。孫の婿?血ぃつながってへんやん。いいん?赤の他人に譲るん?」

「……まあ、そうなりますね。孫に継いでほしいと懇願しても逃げられますからね。……婿殿は、見所のある男で、期待してます。来週から、出勤してもらって、育てるつもりです。」

「へえー。息子さん、気の毒やな。」 


泉の素直なつぶやきは、要人にも、原にも深く響いた。







その夜。

何軒かの店をハシゴして、すっかり上機嫌に酔った泉は、原が手配したホテルではなく、要人の自宅にくっついてきた。


原からの連絡を受けて、義人と希和子が起きて待っていた。


「自分か!かわいそうな息子っちゅうんは!」

開口一番、泉は義人にそう言った。

 

義人は、一瞬きょとんとして、それから苦笑した。

「はじめまして。不肖の息子です。」
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