いつも、雨

「うわぁ。なんや、めっちゃ、出来杉くんやんけ。なあ、なんであかんの?ええやん、出来杉くん。なあ?なあ?なあ?」


泉は、酔ってるふりをして、息子に冷たい要人をたしなめているのだろうか。


ばつが悪そうに、要人が部屋に入ってきた。

「しょーりくん、孫が起きてしまうから。少し声を落としてくれるか?……あー、ただいま。こんな時間に騒がせてすまない。こちら、泉勝利(いずみまさとし)くん。」


「泉さん?どうぞ。何か召し上がられますか?お水がいいですか?……お風呂で汗を流されますか?」


希和子がそう尋ねると、泉は初めて希和子をまじまじと見た。


「ありがとう。せやな。風呂もらうわ。……自分、背中流してくれるけ?」

「はいはいはい。希和子、冗談だから。気にしないように。しょーりくん、私が背中を流してあげよう。こっちだ。」

慌てて要人が泉を引っ張って出て行った。




「……なんか……珍しいお客さまね……。」

静かになった部屋で、希和子がつぶやいた。


「社長が振り回されてる。おもしろいな。……ねえ、原さん。彼、何者?胸板めちゃ厚いけど、スポーツ選手か何か?」

 
義人に聞かれて、原は苦々しげに言った。

 
「まあ、スポーツ選手と言って差し支えないと思います。競輪選手です。」

「……けいりん……」

馴染みがない希和子は、首を傾げていた。


「競輪。泉勝利。……へえ……。」


義人は気づいた。


百合子が、かつてそんな名前の既婚者と付き合っていた……。


そうか……。


しかし、社長はどうして彼と仲良くなったんだろう。


まさか今日まで泉と百合子の関係が継続していたとは、さすがの義人も、思いも寄らなかった。




「どうぞ、お休みください。社長と泉さまを待つ必要はないでょう。……泉さまは、朝型と申しましょうか……朝早くから練習されているそうですので、明日は朝から賑やかになると思いますよ。」

「ふぅん。……あ、じゃあ、適当にジム使ってくださいって伝えておいてください。じゃあ、すみません、お先です。おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」



要人は希和子の肩を抱き、寄り添って廊下を歩いた。



仲むつまじいことで……。


往年の女癖の悪さがすっかり影を潜めた義人に、原は多少の失望を覚えていた。

英雄色を好む、という言葉はあながち間違ってはいないと、原は考えている。


義人さんは、いつの間にか、小さくまとまってしまった……。
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