いつも、雨
学校で演奏するのかな?

……いや。

そう言えば、領子さまの嫁ぐ予定の橘家は、箏の琴を家職としている家だったっけな。

そちらの絡みかな。


婚約者どののことを考えると、やはりおもしろくない。

要人自身は大奥さまの葬儀以来、関わりがなかった。

領子は、昨年、婚約者の千歳が中学校に入って以来、校内で遭遇することはなくなったが……家同士のつきあいが以前より増えた。

領子が16歳になったら結納、ということらしい。


あと3年……か。

それまでに、どれほどに美しくなるのだろうか。

今でも充分、白百合のように清廉な美しさだけど……男を知れば、さぞや色気も出るのだろう。


……いや。

要人はかぶりを振って、雪見障子を静かに下ろした。


考えるな。

今さら、どうしようもないことだ。

生まれたて時から……、生まれる前から……、はるか千年前から決まっていることだ。

領子さまは俺のモノにはならない。


自分に言い聞かせるように何度も心の中で繰り返した。

英語も数式も年号も、一度目にすれば簡単に覚えてしまうのに、どうしてコレだけは覚えられないのだろうか。


……とっくに……いや、最初から諦めているはずなのに。




パタパタと軽い足音が近づいてきた。

「お兄ちゃん!帰ってたの?」

廊下から、弾んだ声。


……ほら。

これだ。

どんなに距離をつくっても、やすやすと乗り越えて走って来るんだよ……このお姫さまは。


要人は苦笑を隠して、静かな声で言った。

「……竹原、ですよ。……ただいま戻りました。領子さま、あいかわらず、お琴……下手くそですね。」

「!!」

障子を開けなくても、領子の反応が手に取るようにわかる。

かわいすぎて、にやけてくる。




しばらくの無言のあと、小さなため息が聞こえてきた。


領子がいじけた声でぼやいた。

「……だって……あまり好きじゃないんですもの。私、音楽の素養は、あまりないんだわ。……勉強も……スポーツも……。」


……ダメだ。

かわいすぎる。

要人は、笑って障子を開けた。


涙目の領子は、抱きしめたいほど愛しかった。
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