いつも、雨
「結局、反復練習しかありませんよ。……こんなところで油を売ってないで、お稽古しはらへんと。」

至極もっともなことを言ったつもりだった。


でも、領子は拗ねたように口を尖らせた。

「……お稽古しなくても弾けるヒトに、そんなこと言われても……。」


確かに、要人は大抵のことは見てるだけで覚える。

でも、ヒトより早く覚えるというだけのことで、決してよりプロフェッショナルに上達するわけではない。

お琴ももちろん習ったことはないが、現在の領子よりはマシという程度だろう。


「習得するスピードなんか個人差があって当たり前やろ。できるまでお稽古し続けたら、領子さまのほうが俺よりはるかに上手くなるわ。」


言葉のトリックだな。

言い換えれば、「俺より上手くなるまで練習しろ」なのだが、領子には通じなかったようだ。


領子は不満そうに象牙の爪を弄び……、ニコッと笑って爪をはずすと要人に差し出した。

「何かコツがあるんでしょ?教えて?」


要人は天を仰いだ。

「……お琴は、俺かて、領子さまに教えられるレベルじゃないのに。……てか、橘の千歳さまに教わればいいのに。優しく教えてくださるんちゃう?」


「もう!意地悪っ!……じゃあ、教えてくれなくてもいいから、私がお琴のお稽古をさぼらないように、そばで監視して。」

領子はそう言って、要人の腕にしがみついた。


……おいおいおい。

「めっちゃワガママ……。」

ぼやきながらも、要人は領子に引っ張られ、お琴のお稽古につき合わされた。




領子は、要人がそばで見守っていてくれていることが、うれしくてしょうがないらしい。

ミスタッチは明らかに減ったが、かなり前のめりで、弾んだ明るい音を出していた。


「やんちゃな音やなあ。……もっと丁寧に弾いてみ。」

苦笑する要人に、領子はニコニコ笑ってうなずく。


……かわいすぎるだろ……もう……。


「ねえ。弾いてみて。」

領子のおねだりに抗いきれず……要人は渋々琴をつま弾いた。


まるでオルゴールのようだな……。


要人は自のはじき出す音が、あまり好きではない。

正確に弾くことは、要人にとってはたやすい。

しかし、そこに何ら感情や情緒が乗らない。

ただ、優雅な旋律の猿真似でしかない。
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