いつも、雨
まあ、成人前に、惚れた女が自分から逃げ出し、挙げ句の果てに、自分に内緒で子供を産んでたってのは……男としてのプライドを打ち砕く事件だったのだろう。


かわいそうに……。


無意識に、原は、先ほど泉が使った言葉を義人に当てはめていた。


……泉という男は、天衣無縫なようで、物事の核心をつくのかもしれない。

泉勝利といい、桜子の夫の小門薫といい、……社長の好きなタイプだよなあ……。


かわいそうな、義人さん……か……。


原は小さくため息をついた。


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翌朝、まいらは野獣のような咆哮に飛び起きた。


なに?

シカやイノシシは、あんな声をあげないよね?


……クマ?




時計を見ると、まだ5時前だ。


好奇心に勝てず、まいらはパジャマのまま部屋を出ると、おそるおそる声のするほうへと近づいた。



ジャーッという耳障りな音と、ピーピーと異常を知らせる電子音もしていたが、何より大きな恐ろしげな音は、やはり声のようだ。


「おおおおおっ!!!」

という叫び声。


しゅーっ……と、空気の抜けるような、息づかい。


……ジム?



けたたましい音を辿り、まいらは一通りの健康器具やマシンの置いてある部屋のドアをそっと開けた。


そこには、有り得ない速度でサイクルマシンを漕ぎ、身体中から汗を飛び散らせる泉がいた。



まさにその時、ガツンと変な音がして、マシンから何らかの部品が飛んだ。


「うわっ!なんや!」


突然、ペダルが回らなくなり、泉は勢い余って、前方へと転回しながら落ちた。



まいらは、驚いて、悲鳴を上げた。


クマじゃない。

でも、見知らぬ、たくましい男が、マシンから落ちてしまった。



「大丈夫!?」

慌てて駆け寄ると、泉は腰をさすりながら、半身を起こした。

「まあ……落車には慣れてるけど……痛いで。普通に。……自分、誰?社長の孫け?義人の娘?……若すぎひんけ?」

飄々とそう尋ねた泉に、まいらは首をかしげた。


「父は竹原義人で、祖父は竹原要人やけど……若すぎるって?なにが?」

「いや、だって、自分の婿が社長の後継者になるんやろ?……まだ10年以上かかるんちゃうけ?」

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