いつも、雨
左目尻がヒクヒクと引き攣ってきた。

要人は身を堅くしてうつむいていた。


「……そう。本当に、器用ですのね。……息子も、娘も……あなたを慕うわけだわ。……でも、立場はわきまえてくださいね。」

夫人はそう言うと、ジロリと領子を見た。


「あ!はい!お稽古します!」

何も言われる前に、領子はそう宣言した。

そして、慌てて要人の側に行き、琴の爪を受け取り指にはめると、お琴の前に座り直した。


「……せっかくいい師が側にいらっしゃるなら、しっかり教えていただきなさい。……竹原。頼みますね。」

夫人はそう言い置いて、部屋から出て行った。


障子戸を開けっぱなしで行ってしまったのは……牽制だろう。

さすがに、領子にも通じたらしく、少し寒そうにしながらも、戸を開けたままお琴を弾いた。

先ほどまでのテンションが明らかに沈んでいた。


……わかりやすすぎて……かわいくて……

「ちょっと、待っててくださいね。」

そう断わって、一旦、部屋を出た。

要人が庭の周囲の廊下をぐるりと回って自室へ入るのを、領子はじーっと目で追った。

すぐに出てきた要人は、カワイイ袋を持っていた。


ぱああっ!と、領子の顔が明るく輝いた。


「お土産?」

要人が戻るなり、領子は立ち上がった。


「いや。これは……入学祝い。おめでとう。」

「うれしい!ありがとう!」

領子は本当にうれしそうな笑顔で要人にお礼を言った。


……ほら。

この笑顔だ。

それだけで、俺は……幸せになれる……。

天涯孤独の若造が、孤独を忘れ、愛に満たされる……。


「え……これ……高そう……。」

箱のブランド名を見て、領子は驚いたように要人を見た。


「お祝いやから。」

要人の言葉に、領子ははにかんだようにほほ笑むと、瞳を輝かせて箱を開けた。

中身は、お揃いの財布と定期入れ。

薄い桜色の光沢のある革に、金色にキラキラ輝くチャームがいくつも揺れていた。

「……かわいい……。うれしい!ありがとう!大切にするわっ!」

領子は、財布と定期入れを胸にギュッと抱きしめた。


「や。明日から普通に使って。」

そのために選んだのだ。

日本一のお嬢さま学校で、領子が気後れしないために……。

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