いつも、雨
4月12日。

要人(かなと)の大学の入学式には、なぜか天花寺(てんげいじ)夫妻が参列した。

遊び仲間から、入学式が武道館で開催されることを聞いて、興味を持ったらしい。


「今日は私のために、わざわざのご足労ありがとうございます。」

思ってもいない謝辞を、もっともらしく口にする。


ヒトのいい当主は、うんうんと頷いて

「まあ、私は君の親代わりのようなものですから。」

と、こちらは意外と本気でそう言っていた。


「……ありがとうございます。」


要人は、深く頭を下げた。





新しい生活が始まった。

大学の講義は思ってた以上におもしろくなく、役に立たないと思われた。

しかも、高校と大差ない時間割の日が何日もある。

一年生の間は、想像していた以上に忙しそうだ。


要人は大学と教習所に通いながら、空き時間を隠れ家で過ごした。

週に3日、夜の7時から9時の2時間は領子(えりこ)の家庭教師となる。


初めての日は、要人も領子もやけに緊張していた。


領子は、授業が終わるとすっ飛んで帰宅して……手持ち無沙汰で、お琴のお稽古を自主的にしていた。

気もそぞろなことは、そのつたない音色でバレバレだ。

逆に、ギリギリに天花寺家に戻った要人は、領子の乱れた心を表す酷い音に苦笑した。


……ただ勉強につきあうだけ……のはずなのに……。

これから、少なくとも、要人が大学を卒業するまで、「勉強」は続くのだろうか。


無理やりでも続きそうではある。

幼い日の「お土産」も、手を変え品を変え、こうして続いている……。


要人は、手の中のシャーペンに目を落とした。


クラスメートが彼氏の大学名の入っているペンやシャーペンを持っていてうらやましいから自分も欲しい……と言われて買ってみた。

彼氏がいるというアピールなのだろうが、むしろこんなダサいモノをありがたがる気持ちがおかしいやらかわいいやら、笑えてくる。


しかし、中学一年生で大学生の彼氏がいるとか……けしからんな。

……いや。

これは、領子なりのアピールなのだろう。


困ったお姫さまだよ……ほんと。

いいかげん、わきまえてくれないと……な……。
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