いつも、雨
夕食の後、領子が教科書やノートを抱えて、要人の部屋……かつての祖母の部屋へとやってきた。

いつも無邪気に、もしくは、無邪気を装って甘えてくる領子が、言葉すくなに、おとなしく漆塗りの座卓に座った。


要人は、戸を開けるかわりに、雪見障子を上げた。

すると庭の向こうに、大奥さまがいらっしゃるのが見えた。


……見張ってるつもりだろうか。


薄いギヤマン硝子越しに会釈すると、大奥さまは無表情のまま、両手をついて座礼した。


ギョッとした。

母親として、やはり心配なのだろう。


要人は、あらためて、すべての雪見障子を全開にした。

2人の学習風景を覆い隠すものはなくなった。



「じゃあ、始めましょうか。」

淡々とそう言った要人に、領子は不満そうに言った。

「見世物みたい。お母さまも、お父さまも……ねえやまで!」


なるほど。

真正面の奥さまだけじゃないのか。

当主も、キタさんも、それぞれ別の部屋からこちらを気にしているのがよく見えた。


「……すぐ飽きはりますよ。数学からでいいですね?」

要人は、真新しい教科書を手に取った。


「うん。……あの……お兄ちゃん……」

切羽詰まったような領子の声。


「……竹原、ですよ。」

「……。」

領子は返事をしなかった。


うつむく領子の前に、要人は買ってきたシャーペンを置いた。

「お土産。」

そう言ったら、領子の頬がふにゃ~っと緩んだ。


「ありがとう。」

うれしそうに手に取り、ボディに刻まれた大学名を見て……カチカチと芯を出す。


……次は消しゴムだな……いや、ペンケースのほうが先か?


領子の、くたびれた文房具を目にして、要人は心を痛めた。


母親は、季節ごとに外商で流行の洋服を選んで買ってくれても、娘の年季の入った下敷きや、薄汚れた定規には気づきもしない。

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