いつも、雨
「ごめん。何とかする。……ゴールデンウィーク真っ最中やし、今からじゃ、ろくなホテルも取れへんやろけど……」

「あら!場所なんて、どこでもいいわ!ココでもいいのに。……竹原が居てくれたら、それでいい。竹原と過ごせるなら、わたくし、本当に、どこでもいいの。」

突如テンションの上がった領子に、要人は苦笑した。


……そんなわけに、いくかよ。

何年待ったと思っているんだ。

大切に大切に慈しんだ掌中の珠。

一筋の傷もつけたくない。

2人の時間に、妥協はしたくない。


領子さまが橘家に嫁いでしまって、千歳さまの子供を産んで、幸せだけど少し退屈な有閑マダムになった時、幸せな気分で思い出し、懐かしめるように……。


「恭風さまの舞台が終わってからじゃ……遠出は無理だよな。季節外れの海とか山なら……琵琶湖とか?」

要人は、領子の乙女心を熟知している。

いかにも喜びそうな可愛らしいペンションやプチホテルぐらいなら、探せば空いている部屋もあるかもしれない。


だが、領子は口を尖らせた。

「わたくし、京都がいいわ。洛中でなくてもいいから、京都がいい。」

だって、竹原との出逢いは……覚えてないけど、京都のはずだもの。

「京都の奥座敷なら、空いてないかしら。湯の花温泉とか、高雄とか?」

「……わかった。探してみるわ。まあ、それはそれとして……そろそろ行こうか。」

「ええ。」


どこへ行くの?

今日は何時に帰るの?

明日も来てくれるの?


本当は、聞きたいことがいっぱいある。


でも、領子は、敢えて何も聞かない。

要人は、いつもちゃんと色んなことを考えて計画してくれているから。


……というよりは、余計なことは、言えない。

領子の何気ない一言でさえ、要人は聞き漏らさない。

スケジュールを変更して、領子の希望を叶えようとしてくれる。

それがどれだけ、周囲に迷惑をかけるかを、領子は察知するようになった。


もちろん要人は何も言わない。

でも、お世話になる第三者……お店の店員さんや、観光タクシーの運転手さんの反応でわかる。

個人的に要人が成功し、金銭的に潤っていたとしても、世間は、学生の分際で大金を浪費するどら息子のようにしか思われないのだろう。

天花寺家のお嬢さまの領子が、これまで経験したことのないような失礼な悪態をつかれることもあった。


領子は、2人きりの時以外は、ワガママを言わないようになった。
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