いつも、雨
驚いてそう尋ねると、運転手はうんうんとうなずいてから……声のトーンを落とした。

「個人情報なんでこれ以上は言えませんけど……稲毛っちゅう家やったそうですわ。かもがわ沿いの。」

「いなげ……。」


偶然つかめた手がかりに、気持ちが逸る。

独りなら、予定を変更して、探したいところだ。



……だが……。


「ありがとうございます。」

要人は運転手にお礼を言ってから、領子の手を握った。


「……鴨五郎さん、お元気でいらっしゃるといいのだけど……。」

小声でつぶやいた領子に、要人はニコッと笑った。

「大丈夫だよ。」

……自分に言い聞かせるように、そうつぶやいた。




車で50分ほど南下して、到着したのは……神社?

白っぽい大きな鳥居を見上げて、領子は首を傾げた。


領子が降りるのを待って、要人は表示された金額の倍以上のお礼を運転手に渡した。

「いや!こんなん、多すぎますわ。受け取れませんわ!」

「……いえ。ありがとうございました。ホームレスでも、私にとっては恩人なので、ずっと心配してたんです。もし亡くなってらっしゃったとしても、橋の下と温かいご自宅とでは雲泥の差ですから。……ホッとしました。」


要人の真摯な態度に、運転手は相好を崩した。

「そうか。ほな、ありがとうございます。……かもがわゆーても、上(かみ)や。左京区下鴨。庭から河原に出られるらしいわ。河原を歩いたほうがわかりやすい思うわ。」

運転手は、丁寧にそう教えてくれた。


ひとくちに「かもがわ」と言っても、「鴨川」と「賀茂川」とは区別されている。

鴨五郎がいつも居たのは、鴨川。

この鴨川をずっと上流にさかのぼると、出町柳で2つの源流に別れる。

東側が高野川、西側が賀茂川だ。


運転手の情報は、鴨五郎の自宅らしい稲毛邸の場所をかなり特定してくれた。


「本当に、ありがとうございました。」

要人は深々と頭を下げて、車を降りた。




「すっごく遠くまで来たみたいだけど。ここは?」

すぐにすり寄ってきた領子が、かわいく尋ねた。

「これでも一応、京都市に隣接してる……ところもあるんやけどね。長岡天満宮。そこから、上がろうか。」

「ながおか……きょう?……の、あるところ?」


日々の勉強の成果で、領子は教科書レベルの教養はちゃんと身についている。

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