いつも、雨
「んー、まあ、そうかな。……でも長岡京の大極殿は隣の向日市にあったけど。……ややこしいけどね。」

「むこうし?」


石段を登ると、大きな池。

池をぐるりと縁取るように緋色のキリシマツツジが咲き乱れている。

さらに奥には、お屋敷が池にせり出して建っている。


「すごいわ!!真っ赤!!」

背丈よりはるかに高いキリシマツツジの生け垣は、どこも満開だ。

「まるで真っ赤な塀ね!こんなに大きくなるなんて……」


ぴょんぴょん飛び跳ねる領子に目を細めて、要人はちょっと笑った。

「皇居の築山もツツジやん。」

「……もう。不敬よ。軽々しく引き合いに出すなんて。」

さすがに皇族や天皇に対する敬意は、幼い頃から叩き込まれているらしい。


領子に窘められて、要人は「ごめん」と小さくつぶやいた。




それにしても、見事なキリシマツツジだ。

「昔、よく、ツツジの蜜を吸ってたの、思い出した。」

要人は、ついついそんなことを言った。


ふふっと、領子も笑った。

「わたくしも。舐めたことがありましたわ。すぐにお母さまに見つかって、きつくお叱りを受けて。……ねえやが、代わりにキャンディをくださったの。」

「それでキタさん、いつも飴持ってはったんや。……俺も、よくもらったよ。キタさん、領子さまのこと、かわいくてしょうがないんやろうなあ。」


要人の言葉に、領子の顔が曇った。

「わたくしも、ねえやが好きよ。竹原の次に、好きよ……でも、そのねえやさえ、こうして騙してると思うと……自分の罪深さが恐ろしくなってくるわ。」


そっと、要人は領子の肩を抱き寄せた。


領子に、無理をさせていることはわかっている。

両親にも、兄にも、大好きなねえやにも内緒で、要人と秘密の関係を構築していることに、良心の呵責を感じていることも。


でも……。


「領子さまもオトナになったんやなあ。……これからは、今まで以上に罪悪感を抱くことになると思うけど。……後悔しませんか?」


来たるべき夜のことを、要人は確認した。

家族だけじゃない、婚約者、ひいては婚家をも欺くことになる。


領子は、息をのんだ。
< 82 / 666 >

この作品をシェア

pagetop