いつも、雨
取り返しのつかない……後戻りできない道……。

いいえ、後悔なんて、絶対しないわ。

わたくしは、竹原が好き。

竹原以外のヒトと、そんなことするなんて、考えられないもの。


領子は、頭の片隅にも婚約者の無表情な顔を思い浮かべたくなくて……ぶるぶると首を横に振った。

そして、要人にぎゅーっとしがみついた。

「後悔なんて絶対しないわ。竹原と一緒にいるためなら、どんなことにも耐えますわ。ひもじくても、一緒にツツジの蜜を舐めるわ。」


「……あなたに、ひもじい想いなんて、絶対にさせませんよ。」

金はある。

一生、喰うに困らないどころか、お姫さま暮らしができるだけの蓄えはできた。


「あら。わたくし、少しお腹がすいてきたわ。」

ふざけてるのか、甘えてるのか、領子は笑顔で空腹を訴えた。


「うーん。ちょっと中途半端ですね。せっかくタケノコ料理を予約してるので、少しだけ我慢してください。……これで。」

要人はポケットから飴を出した。


「キャンディ!……食べさせて、ください。」

領子はそう言って、顔をずいと近づけた。


苦笑して、要人は飴を包み紙から取り出して、領子の口元に近づけた。


「やだ。違うわ。……食べさせて。」

領子は、いやいやして、唇を突き出した。


「……はしたないお姫さまや。」

要人はまんざらでもない顔で一旦自分の口に飴を放り込むと、少し舐めてから、領子を抱き寄せた。

飴だけじゃなく、要人の舌をもぞんぶんに味わって、領子は、心身ともに満たされた。





「写真、撮りたいわ。」

次のワガママは、要人に却下された。

「ダメ。証拠が残るのは、まずい。……また、来ればいいから。」


ガッカリしたけれど、領子はすぐにまた顔を輝かせた。

「お守り、買ってください!こちら、天満宮なのでしょう?学問の神様だわ。」

「……それなら、本家本元の北野天満宮のほうがよくない?」

「そちらは、小さい頃から、おばあさまが買って送ってくださったもの。……こちらは、竹原に初めて連れて来てもらったのよ。記念に1つ、買ってくださいな。」


要人は息をついた。

その「記念」が、まずいのに。


……まあ、買った日付が入るわけでもないし……何とでも誤魔化せるか。
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