小倉ひとつ。
この時間帯はいつも瀧川さんひとりしか来店しないので、大抵、カウンターを離れて瀧川さんのお見送りをする。
瀧川さんが朝一番にお店に来て、「小倉ひとつ」と言い、お見送りをするまでが朝の一連の流れだ。
カウンターの扉を押し開けて戸まで駆け寄り、からりと引き戸を引く。
戸を押さえると、ちりん、と釣鐘が小さく鳴って。
「ありがとうございます」と言いながら、瀧川さんは手慣れた仕草で、小倉色の暖簾を少し押し上げてくぐった。
今日は普段通り九時にいらしたし、急いでいるようではなくてお話もしたし、多分私のいつもの速度で大丈夫。
急ぎのときは一言添えてくれるから小走りにするけれど、今日は何もおっしゃってないし。
一歩ぶん先に敷石を歩いて、歩道に面した門扉を流れでそのまま押し開けて押さえた。
大きな木目は、何度も押さえられてそこだけつるりと滑らかになっている。
今日はいい天気だ。快晴のときは、木製の扉はよく乾いて少しあたたかい。
「ありがとうございます」
「いいえ」
綺麗な所作で軽く頭を下げる瀧川さんに、接客の意味だけでなくにこりと笑った。
頭を下げるだけの人が多い中で、こうきちんと声をかけてもらえると心が穏やかになるよね。
エレベーターで開閉のボタンを押すときと同じ感じ。
「十三時にお待ちしております」
見上げた瀧川さんに、決まり文句を告げて。
「行ってらっしゃいませ」
それから、私の言葉をつけ足す。
「お気をつけて。お仕事頑張ってくださいね」
「はい、行ってきます」
にこりと笑った瀧川さんの満面の笑みは、それはもう美しかった。
瀧川さんが朝一番にお店に来て、「小倉ひとつ」と言い、お見送りをするまでが朝の一連の流れだ。
カウンターの扉を押し開けて戸まで駆け寄り、からりと引き戸を引く。
戸を押さえると、ちりん、と釣鐘が小さく鳴って。
「ありがとうございます」と言いながら、瀧川さんは手慣れた仕草で、小倉色の暖簾を少し押し上げてくぐった。
今日は普段通り九時にいらしたし、急いでいるようではなくてお話もしたし、多分私のいつもの速度で大丈夫。
急ぎのときは一言添えてくれるから小走りにするけれど、今日は何もおっしゃってないし。
一歩ぶん先に敷石を歩いて、歩道に面した門扉を流れでそのまま押し開けて押さえた。
大きな木目は、何度も押さえられてそこだけつるりと滑らかになっている。
今日はいい天気だ。快晴のときは、木製の扉はよく乾いて少しあたたかい。
「ありがとうございます」
「いいえ」
綺麗な所作で軽く頭を下げる瀧川さんに、接客の意味だけでなくにこりと笑った。
頭を下げるだけの人が多い中で、こうきちんと声をかけてもらえると心が穏やかになるよね。
エレベーターで開閉のボタンを押すときと同じ感じ。
「十三時にお待ちしております」
見上げた瀧川さんに、決まり文句を告げて。
「行ってらっしゃいませ」
それから、私の言葉をつけ足す。
「お気をつけて。お仕事頑張ってくださいね」
「はい、行ってきます」
にこりと笑った瀧川さんの満面の笑みは、それはもう美しかった。