小倉ひとつ。
稲やに訪れる常連さんは、誰もがみんな素敵な人たちばかりだ。

たい焼きが好きで、稲やが好きな人たち。


素敵なお店で、素敵なお客様たちと過ごす、素敵なひととき。なんて素敵なんだろうか。


稲やは、午後三時で売り切れるのが常の、とても人気な老舗のたい焼き屋。


たい焼きは小倉やクリームなどの定番のものと、季節のものとを取り揃えている。


店内ではゆったりお抹茶をいただくこともできるし、赤い敷物を敷いた木製の長椅子に座っておしゃべりを楽しむこともできるし、丸椅子に座ってひとりで食べることもできる。


午前中に余裕があるのはどうしてもご高齢の方や学生さんが多い。

電話でもネットでも予約できるから、予約していれば別なんだけれど、午前中があいている方はともかく、お仕事をしてらっしゃる方が予約なしにお昼に来ると、ほとんどの場合はもう全て売り切れてしまっている。


十二時は盛況真っ盛り、十三時はほとんど売り切れてお客さまの流れも落ち着く。


ともすれば当日の分は全て予約されていて、翌日になるときもある。


少人数で数量を絞って販売しているから、なかなかご新規さんは売り切れ前に来られないんだよね。


自然と常連さんが多くなって、それでもあまりの評判のよさと有名さにご新規さんが増え続け、売り切れなかった日はない。


だから瀧川さんは、必ず朝の出勤前に予約していく。


たまに前日になるけど、予約を欠かしたことはない。


瀧川さんの名前はいつも、真っ白な書き留めの一番上だった。
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