小倉ひとつ。
でもだからこそ、クリスマスなんて日に私と食事をしている瀧川さんが、よく分からないのだ。


クロック・ムッシュを切り分けながら伺うと、瀧川さんがいたずらな目をした。


「私こそ、立花さんはお忙しいんだろうと思っていたんです」

「ケーキを食べる予定はあります。……帰ったら寂しくひとりでですが」


私に恋人はいない。

それは自明の理だ——何しろ、一緒にクリスマスケーキを食べてみたい人は、なぜか目の前に座っている。


家族は最近胃がもたれるとかで、和菓子は喜んで食べてくれるんだけれど、生クリームがたっぷり使われているお菓子は全然一緒に食べてくれない。


「ご予約されてるんですか?」

「いえ、帰りに何か買おうかと思っていました。でも、そんな感じでしたので、お誘いいただいて嬉しいです」

「こちらこそ、立花さんがいらしてくださったおかげで、寂しく過ごさずに済みました。ありがとうございます」


今週か再来週の土曜日でしたら、なんて連絡に、今週の土曜日をお願いしてみたのは私だ。


でも、初めに提案してくれたのも、最終的に今週の土曜日に——クリスマスにしようと決定したのも、瀧川さんだった。


『今週、再来週の土曜日でしたらこちらはいつでも大丈夫ですが、立花さんは何時頃でしたらご都合よろしいでしょうか。』

『了解しました。今週の土曜日の十一時からで大丈夫です。』


……そんな文面からは、私が欲しいものは何も読み取れなかったけれど。


ねえ、瀧川さん。


なんで今日にしたんですか。

なんで、たい焼き器の話をしたとき、私を誘ってくれたんですか。


「いえ、こちらこそありがとうございます」


……あなたが優しい世間話をしてくれる度、私は勝手に、勘違いしそうになるんです。
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