小倉ひとつ。
「お任せしてしまっていましたが、材料や器具は瀧川さんのものをお借りするということでよろしいでしょうか」


意識を切り替えるつもりでカフェオレを一口飲んでから聞くと、はい、と頷きが返された。


「材料は一通り揃えてあるつもりですが、一度確認していただいて、もし何か不足があれば買い足しに行かせてください」

「分かりました、ありがとうございます」


なるべくさらっと笑う。


「帰りに材料費とか光熱費とかの精算をさせてください」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」


遠慮しないあたりが、誰かを家に呼ぶのに慣れているみたいな気がして、勝手に苦しい。


馬鹿な考えを振り払いたくて口に運んだかぼちゃは、格段に塩からい気がした。


続いてボウルを傾ける。


かき混ぜたスプーンには残らない、軽やかな泡が、飲み終わりのボウルに少し残った。


お抹茶と同じだ。薄茶が残ってしまうのと同じ。


薄茶で言えば、最後少し泡を飲むくらいならまだ行儀悪くない範囲だけれど、あんまり何度も口をつけ直すわけにもいかない。


……今度はちゃんと計画的に飲もう。


次を考えている時点で、私はこのお店を気に入ったらしい、とどこか他人事のように思った。
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