小倉ひとつ。
飲み終わった少し重いボウルを、できるだけ静かに置く。


「すみません、お待たせしました」


先に入店して、カフェ・オ・レ ボウルを飲んでいたこともあるだろうか。


私がボウルの半分くらいを飲み干すまでにはとっくに食べ終わって、のんびり話しながらお冷やを傾けていた瀧川さんは、私がボウルをゆっくり傾けるのを待ってくれていた。


「いいえ。結構大きいボウルですよね」

「ええ。少し」


でもたい焼きはちゃんと入ります、と意識してつけ足すと、それは安心ですね、と笑ってくれた。


よかった。


私が荷物の整理を始めたのを見て、「そろそろ失礼しましょうか」と声をかけてくれる。


「はい」


お気に入りの腕時計によれば、もういいお時間だ。


家を出る前にちゃんと時間を合わせておいたから、ずれていないはず。とすれば、一時間以上経っていることになる。


多分、もう札の十の位の数字が変わっている頃合いだろう。


ふたりで並んでお会計に向かったけれど、お支払いはひとりずつしかできない。


瀧川さんが先にお会計に向かったので、じゃあ私はその後にしよう、と少し後ろに下がったお隣で待機していたら。
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