小倉ひとつ。
サークルの先輩だとか、稲やさんの繋がりや親族の関係だとかで年上の方にごちそうしていただくときは、お祝いやお誘いの時点で、初めからそうだと知っている。


そういうときは、遠慮しないでありがたく受け取って、すみませんありがとうございます、ごちそうさまですって言えばいい。


それで、後から何か軽いお返しをしたり、お返しが失礼に当たる場合は、勉強とかアルバイトとか、できれば成果があらわれるような、自分なりにできることを頑張ったりすればいい。


……でも、こういうときは?


お会計で言われたときは——それが瀧川さんからのときは、どうしたらいいのかな。


素直に甘えて終わりにしてしまいたくないのは、瀧川さんが好きだからだって、自分で分かっていた。


「ええと……」


まごつきながら言い募る私に、瀧川さんは困ったように微笑んで、一歩近づき。


「立花さん」

「……はい」


そっと、小さく囁いた。


「少しくらい、私にも格好をつけさせてくださいませんか」


元々お隣で近かったのに、さらに近づいた距離に。

触れそうな鼻先に。

その、穏やかな眼差しに。


「……はい……」


私はあえなく撃沈した。
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