小倉ひとつ。
「ありがとうございます、お先にコートを受け取って来ますね」

「はい」


ずっと横にいて見ているのもあれなので、お会計を済ませ始めた瀧川さんから離れて、先にかけておいたコートとマフラーと手袋を受け取る。


瀧川さんのぶんも受け取った方がいいのかな。


いやいや、ハンガーにかかってなかったら着にくいでしょ。私がコートやマフラーを着て準備を終える頃には、お会計も終わると思うし。


うん。終わってなかったら考えよう。決して先送りにしたわけではない。


店員さんに渡した札に、先の会話を思い出した。大丈夫かな、なんて少し緊張しながら見つめたけれど、札を間違えてはいないらしい。

ちゃんと私のものだ。間違う前に札をお返ししておいてよかった。


鞄が邪魔になるので、やっぱり店員さんに鞄を預けさせてもらってから、コートを羽織り、マフラーを巻いて、手袋をはめる。


「ありがとうございます、お手数おかけしました」と鞄を受け取っていると、「お待たせしました」と瀧川さんがこちらに顔を出した。
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