小倉ひとつ。
——私ははじめ、稲やさんの常連だった。
一番初めに門扉をくぐったのは、小学校入学前の、庭の紅葉が赤くて綺麗な頃。
祖母と母に連れられて、月に一度は食べるたい焼きのお店にはしゃぎながら、母の手を引きぶら下がり、敷石の上を上機嫌に飛び跳ねた。
祖母も母も稲やさんの常連で、たい焼きが好物なものだから、私もそのおこぼれに預かって、よく稲やさんのたい焼きをおやつに食べていた。
祖母はお茶の先生で、ときどきお弟子さんたちを呼んで開くお茶会のお茶菓子に、稲やさんのたい焼き……は少し大きすぎるから、稲やさんのおはぎを選んだ。
小さくて丸い、ころんとした、小倉のおはぎ。
もちろん俵の形のものも売っている。美味しさは両方変わらない。
物珍しくてきょろきょろしながらお店に着いて、お茶席に通してもらって、ぴーんと格好つけて正座する私を、稲中さんは微笑ましげに見つめていた。
お茶を点ててくれたのは稲中さんの奥さんで、髪をお団子に引っ詰めた、稲中さんみたいに優しい顔をした綺麗な女の人だった。
ふたりは当時もう髪に白髪が混じり始めていたけれど、表情が生き生きしていて、不思議と若々しかったのを覚えている。
簡単に、気軽に楽しめるようにと、稲やさんでは主に薄茶を出している。
子ども向けに少し冷ましてもらったお抹茶はとても美味しかった。
小倉のたい焼きはもっと美味しかった。
一番初めに門扉をくぐったのは、小学校入学前の、庭の紅葉が赤くて綺麗な頃。
祖母と母に連れられて、月に一度は食べるたい焼きのお店にはしゃぎながら、母の手を引きぶら下がり、敷石の上を上機嫌に飛び跳ねた。
祖母も母も稲やさんの常連で、たい焼きが好物なものだから、私もそのおこぼれに預かって、よく稲やさんのたい焼きをおやつに食べていた。
祖母はお茶の先生で、ときどきお弟子さんたちを呼んで開くお茶会のお茶菓子に、稲やさんのたい焼き……は少し大きすぎるから、稲やさんのおはぎを選んだ。
小さくて丸い、ころんとした、小倉のおはぎ。
もちろん俵の形のものも売っている。美味しさは両方変わらない。
物珍しくてきょろきょろしながらお店に着いて、お茶席に通してもらって、ぴーんと格好つけて正座する私を、稲中さんは微笑ましげに見つめていた。
お茶を点ててくれたのは稲中さんの奥さんで、髪をお団子に引っ詰めた、稲中さんみたいに優しい顔をした綺麗な女の人だった。
ふたりは当時もう髪に白髪が混じり始めていたけれど、表情が生き生きしていて、不思議と若々しかったのを覚えている。
簡単に、気軽に楽しめるようにと、稲やさんでは主に薄茶を出している。
子ども向けに少し冷ましてもらったお抹茶はとても美味しかった。
小倉のたい焼きはもっと美味しかった。