小倉ひとつ。
「どちらがよろしいですか?」

「無作法かもしれませんが、一緒にお願いしても差し支えありませんか」

「ええ」


瀧川さんはある程度分かっていらっしゃる方だ。わざわざ一緒にって頼むのは、話のしやすさからだと思われた。


どんなお店でもそうだけれど、途中で店員さんがいらしたら話を中断するもんね。


私とふたりきりになるので、別段瀧川さんのお好きなようにしていただいて構わない。


私は結構ゆるゆるっとお茶を楽しんでいる自覚がある。


本当はきっちりばっちり格好よくお作法通りにして見せた方がいいのかもしれないけれど、お茶が好きだからこそ、こうしてほしいとかああしてほしいとか、こちらから言うつもりはなかった。


作法をがちがちに気にするより、好きに楽しんでいただいて、また来たいなとか、来てよかったなとか思ってもらえたら嬉しい。


お誘いしたのはこちらなのに、気疲れしてほしくない。


頷いて奥さんに向き直る。


「一緒にお願いしてもよろしいですか」

「かしこまりました」


注文を繰り返して確認を取り、ご用意いたしますのでしばらくお待ちくださいませ、と奥さんがにっこり笑って戸を閉めた。
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