小倉ひとつ。
「随分細かく聞き取りしてくださるんですね」

「こんなに丁寧にしてくださったのは私も初めてです。いつもはもっとさらっとしてるんですが」

「俺と来たからかもしれませんね。お茶に不慣れなのは見て取れるでしょうから」

「いえ、そんな」


違うと思う。多分違うはず。


でも、じゃあどうしてかを考えると言葉に詰まりそうだったので、視線を外に逸らす。


ふたりでお互いの言葉を待って落ちた沈黙を、瀧川さんが穏やかに埋めた。


「素敵なお庭ですね」

「素敵ですよね。今は雪景色ですが、秋の紅葉が見頃の時期は、ずっとここにいたくなるくらい、とっても美しいお庭なんですよ」


枝葉の陰から光が差し込んで、紅葉の赤が燃えるように鮮やかで、姿勢を正したくなる美しさ。

目の覚めるような美しさは、神々しさに似ている。


「それは拝見しに是非またこちらに伺わないといけませんね」

「ええ、是非。おひとりでも、どなたかといらしても楽しいと思います」


合わせてくれた瀧川さんにできるだけ軽く笑ったら、優しい微笑みが返ってきた。


「よろしければご一緒にいかがですか。お庭を眺めつつ、他のおすすめのお茶を今度はこちらで点てていただくのも楽しそうです」
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