小倉ひとつ。
「ありがとう、ございます。おすすめを考えておきますね」


するりと差し込まれたお誘いへの返事は、なんとか言葉に詰まらなかった。


お話する度瀧川さんは何かと私を誘ってくださるけれど、いいんだろうか。その……他の方とのお約束は、しなくていいのかな。


お忙しいのに私ばかりがご相伴に預かっていて、とても嬉しい反面、少し心苦しい。ご自分の予定を優先してくださってもいいのに。


最近、幸せな約束で土曜日が埋まっている。


でもそれは、私が特別だからじゃない。私が話題を振るから。


きっと気遣いだ。


さらりと寄越された約束が随分と先の話すぎて、覚えていらしたらって前置きをするのさえ臆病になるほどだった。


失礼いたします、と戸の向こうから声がかかる。


頼んでいたものを持ってきてくださったんだろう。


猫背にはなっていなかったはずだけれど、意識して背筋を伸ばして、引き戸の方に向き直った。
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