小倉ひとつ。
「素敵なご紹介をいただきましてありがとうございます」

「とんでもないです。こちらこそお付き合いくださってありがとうございます」


美味しいです、と緩んだ口元で繰り返しながら、瀧川さんは練り切りに柔らかな眼差しを向けた。


本当にお口に合ったみたいで嬉しい。


「立花さんの練り切りは末廣ですよね?」

「はい。瀧川さんは寿ぎでしたよね」

「はい。本当に美味しいですね」


名残惜しそうな、もどかしい手つきで残りを切り分ける。


おおよそ三口でいただくのが作法だ。どんなに美味しくて大事にいただきたくても、少しずつちまちま食べるのは無作法に当たる。


私も名残惜しく切り分けた。


「……せっかくだから、他のものをひとついただいて帰ろうかな」


お隣から落ちた呟きは、珍しく丁寧に整えられていなかった。


おそらく掛け値なしの本音で、しみじみにじんだ感慨に、努めて軽く笑う。


「私も他にひとついただいて帰りたいです。本当に美味しいですよね」


買うならさっき迷った福梅がいいかな。せっかくだから家族のぶんも買って帰ろうか。


そんなことを考える私に、瀧川さんが眉を下げて。


「でも、せっかくいただいて帰っても、お茶がないと寂しいですよね、きっと。これは抹茶ラテでは……」


なんて、残念そうに言うので。


「よければうちにいらっしゃいませんか」
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