小倉ひとつ。
「ありがとうございます。望外のお話で光栄です。お言葉に甘えてお邪魔させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

「はい、もちろんです。是非是非」


平静を装って頷く。


あなたが好きですとは、言わないと決めている。


でも、たい焼きやお茶が好きなのは本当のことだから。

この練り切りが頰が落ちそうなほど美味しいのも、本当のことだから。

いつもお世話になってばかり、いただいてばかりの瀧川さんに、お礼をしたいのも本当のことだから。


だから。だから。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「はい」


頑張りますね、とおどけて答えた声は、苦しいほど明るく響いた。
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