小倉ひとつ。
「お抹茶でしたらこちらがおすすめです」


お抹茶は袋より筒型の容器に入っているものの方が茶杓で掬いやすい。


隣り合わせに並んでいるので、分かりやすいように筒型の方を手で指し示す。


苦味が強くなくて飲みやすいことと、一応祖母のお気に入りだから、身内の欲目になるかもしれないけれど味は確かだと思うことを伝えた。


「ちょっとお高いので私は特別なときにいただくんですが、家族みんな好きなんです」


それは安心ですね、と瀧川さんが微笑む。


「では、こちらにします。ありがとうございます」


おすすめしたお茶をひとつ取った瀧川さんが、一緒にお会計を済ませたお菓子はぬばたまだった。


ぬばたまはあんこが胡麻で覆われた練り切りで、鈍い艶が美しい。


胡麻お好きなのかなあ。たい焼きも胡麻の日は胡麻にされることが多いもんね。


なんて思っていたら、すみません、と奥さんに向かって穏やかにつけ足す声がした。


「お茶だけ贈答用に包んでいただけますか。包装はこちらのお色でお願いいたします。熨斗は結構です」

「かしこまりました」


ん? 贈答用?
< 273 / 420 >

この作品をシェア

pagetop