小倉ひとつ。
ああ、そうか。


ついつい私目線というか、茶道が身近にある考え方をしてしまって、なんだか勝手にご自分用かなって思ってたんだけれど、瀧川さんはお道具をお持ちじゃないんだから点てられないよね。もちろん贈答用に決まっている。


お茶をひとつだけ会社に持っていっても差し入れにはなってくれない。


それも粉末だなんて、たとえお道具が会社に一式あってもなかなか持っていかないだろう。

そもそも、お道具が揃っている会社ってほとんどないと思う。

稲やさんみたいにお茶に関連してるお仕事なら置いてあるところもあるのかな。となると、当然瀧川さんの会社に置いてあるわけがない。


ええと、お世話になってる方がお茶を嗜んでいらっしゃる方で、その方に渡すとか……?


お菓子とお茶で紙袋を分けて、お茶の方は贈答用のちょっといい紙袋に変更してもらっていた。


でも、奥さんが入れようとしたら断っていたんだけれど、お渡し用の予備の紙袋つけなくていいのかな。


私はいつも持ち運んでいるうちに紙袋の持ち手がくしゃっとヨレてしまうので、どなたかに差し上げるもののときは、必ず持ち帰る用の紙袋にお渡し用の紙袋を入れてもらう。


瀧川さんがくしゃくしゃのプレゼントを渡すはずがないから、紙袋がヨレない方法をご存知なんだろうか。是非とも教わりたい。


「お待たせしました」


瀧川さんは紙袋をふたつ提げながらお財布をしまい、にこやかにこちらを振り返った。
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