小倉ひとつ。
「いえ。お茶、どなたかに差し上げるんですか?」


もっとこう、入れ物が素敵なものを選べばよかったかな。見栄えがするようなものというか。


抹茶を渡すということは、その方は一通り道具をお持ちで、ある程度お茶を嗜まれているってことだから、あんまり普通のものだとお渡ししにくいよね。


美味しさ準拠で選んじゃったのは失敗だっただろうか。


ごめんなさい瀧川さん、お相手がどういう方なのか、事前にちゃんとお聞きしてから選べばよかった……!


他にも素敵な柄の入れ物のものとか華やかな入れ物のものとかだってあるのに、完全に私の好みで選んでしまった。


いやでも本当に美味しいんです、美味しいのは確かなので……!


内心わたわたする私に、ええ、とにっこり微笑んで、瀧川さんは買ったばかりの紙袋をこちらに差し出した。


「こちら、立花さんに。どうぞご家族の方とお召し上がりください」

「えっ」


私? 私……!?


呆けるも、両手で差し出された袋をそのままにするわけにはいかなくて、慌ててこちらも両手を差し出してなんとか受け取る。


……ああ、だから私に好みを聞いてくれたのか。


さっきふたりでいただいたものと同じでは味気ないから、先ほどのおすすめ以外にって注釈したんだろうし、予備の紙袋を断ったのもすぐ渡すからだろうし。


というか瀧川さんなら本来、ちゃんと相手に合わせてくれる方なんだから、お渡しする相手の方はこういう方なんですが、似合いのものを選びたくてってつけ足してくれるはず。


なんで気づかなかったの私……! ご自分用かなあ、なんて言ってる場合じゃなかった。
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