小倉ひとつ。
「ありがとうございます、いただきます。お手数をおかけしてすみません……!」

「いいえ。こちらこそ、突然お邪魔してすみません」


いやだってそれは私が突然誘ってしまったからで、えええごめんなさい、そうだよね手土産とか考えるよね。


瀧川さんがしっかりしてらっしゃるのを再確認した。私がお邪魔するときなんてお茶しか持っていってないよ。


家族のことも鑑みてお茶にしてくださったんだろうな。


生菓子だと乾燥しちゃうし、干菓子は数が多くて分けにくいし、お茶なら絶対私の家族みんな好きで点てるだろうなって予想がつくもんね。


今日の私の鞄でも問題ない持ち運びやすい大きさで、乾燥とか湿気とかをあまり気にする必要がなく、かなり日持ちして、それなりのお値段で、確実に喜ばれるという、全然邪魔にならない完璧な手土産。ほんとすみません……!


道中、ありがとうございますを何度も言いながら自宅までご案内した。


がさごそ携帯しているスペアキーを取り出して鍵を開ける。


「ただいま」


誰もいないけれど、ひとまずただいまを言っておく。


家に帰ってきたら、たとえ誰もいなくてもただいまって言うことにしている。


ただいまに人数分のおかえりがやまびこしないのは少し寂しいけれど、そういうときは自分で「ただいまーおかえりー」ってやるから大丈夫。

さすがに今は瀧川さんがいらっしゃるのでしないけれど。
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