小倉ひとつ。
「お邪魔します」

「はい、どうぞ。鍵閉めてもよろしいですか?」

「もちろんです」


一応確認すると、絶対に閉めてくださいという強い意志で頷かれた。


いや、普段は戸締りするんだけれど、お嫌かなって……でもそうですよね。すみません、ちゃんと閉めます。


スリッパは大きめの来客用を出してきた。


私のルームシューズはもこもこぬくぬくなんだけれど、瀧川さんにお渡しした方は本当にただのスリッパで申し訳ない……。


来客用のスリッパは通年使えるものにしてある。夏は少し暑くて冬は少し寒い仕様。


せめてもと、暖房の温度を高めに設定してから和室にご案内した。


「スリッパはこちらに、お荷物はこちらにどうぞ」

「ありがとうございます。失礼します」


スリッパは引き戸の手前の隅に、お荷物は畳の隅に置いてもらって、お正客の位置を指し示す。


電気をつけても簾を上げないと少し薄暗いので、私も荷物を端に寄せて手早く簾を上げていると、「お手伝いします」と瀧川さんが隣に並んでくれた。


何もしないで待っているのは手持ち無沙汰だからだと思うけれど、瀧川さんはいつも率先して動いてくださる。


……すごいなあ。大人だなあ。


ささいな発見は、また私の中に確かに積もった。
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