小倉ひとつ。
「ありがとうございます。そちらを持っていただいてもよろしいですか?」

「はい。簾ってこうやって上げるんですね。実際にやってらっしゃるのは初めて見ました」

「そうですよね。今は洋風のお家が多いうえ、洋室に簾を取りつけてらっしゃるご家庭は少ないですものね」


うちも茶道教室用に広くとったこの和室以外は全部洋室だし。


簾を強く望んだのは祖母なんだとか。

両親が新築を建てると決めたとき既に茶道教室を始めていたから、和室に合うカーテンを探すよりは、せっかくなら簾をつけてほしい、ブラインドより簾がいい、と主張したって聞いている。


多分、他のお茶室で簾を掛けてらっしゃるところがあって、こうしたいなって思ってたんじゃないかな。


和室は基本的に祖母の管轄なので、いつも嬉々として簾を上げている。


窓の外にはささやかな雪景色くらいしかないけれど、家を建てるときに両親がせっかくならと庭には拘ったので、季節ごとに顔が違って、結構話の種になる。


「まさに香炉峰の雪はいかならむ、ですね。玄関に着くまでに少しだけ拝見していましたが、とても素敵なお庭で」

「ありがとうございます。両親が喜びます」


雪と簾というと、よく連想されるのは枕草子の「雪のいと高う降りたるを」だと思う。


大変有名どころではあるけれど、そこですっと引用するところが素敵だなあと思った。瀧川さんが言うとくどくない。
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