小倉ひとつ。
自然光で明るくしたところで、ちょっと引き出しをごそごそして家族共用のものを出してきて、全部揃えた。


持ってる茶器は私のものを使う。お茶はどうしようかな。奮発して私の手持ちで一番お高いのにしよう。


手早く済ませたいので、お湯はやかんで沸かしたものを釜に移す。


ごめんおばあちゃん。いただいたお茶で今晩にでも作法通りのお薄点てるから許して。


「お寒くないですか?」

「大丈夫です」

「よかった。足はどうぞ、崩していただいて結構ですので。ご自由におくつろぎくださいね」

「ありがとうございます、お言葉に甘えさせていただきます」


綺麗な正座をしていた瀧川さんが、少しだけ足を崩した。


正座には慣れていらっしゃるって分かっているけれど、一応ね。足がしびれて楽しめないなんて悲しい。


「いえ、私も気軽に点てますので、くつろぎすぎて何かミスをしても見逃してやってください」


下手な冗談に、はい、と笑ってくれた。
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