小倉ひとつ。
個人的なお茶なのをいいことに、本来は裏で用意するお菓子もお茶も、気にしないでとにかくどんどん準備をする。


懐紙は薄い金箔が散っているものにして、菓子切りも細かい意匠のものをがさごそ出してきた。


「練り切り、俺がやりますよ」

「ありがとうございます。お願いします」


お箸を渡すと、瀧川さんが練り切りを懐紙にのせてくれた。


練り切りはつまりはあんこなので、とても柔らかいお菓子で、お箸で崩さないようにつまむのが結構難しい。

お箸もお箸で、うちのお箸は角が丸まっていない大きめの木のお箸なので、間違って平らな面じゃなくて角をお菓子に当てると盛大な跡がつく。

しかもお菓子が入れ物に張りついている。あんこだから。


初めての方はお箸の向きを間違ったり、張りついているのを無理に持ち上げようとしたりして、跡をつけたうえに形を崩してしまう方が多いのだけれど、瀧川さんは一度慎重にお箸を見て、お菓子の下の方をそっと支えるようにして持ち上げていた。

完璧。さすがである。


その間にお茶碗にお湯を注いで温める。その方が冷めにくいので、好きに点てるときは必ず一度お茶碗を温めることにしている。


お茶を振るって、お茶碗のお湯を捨てて、茶杓で抹茶を掬って。瀧川さんはこのくらい。よし、綺麗に点てられた。


お茶碗の柄を確かめつつ向きを直して、お菓子とお茶をお盆に置く。


お先にどうぞ、とお出ししようとしたところで、立花さん、と控えめに声をかけられた。


はい、と顔を上げる。


「……すみません。わがままを、言ってもいいですか」

「はい」


お正客の位置にいる瀧川さんが、迷いとともにこちらを見た。


上げた簾の向こうから差し込む光が、雪に反射してか、少し白ばんで瀧川さんの肩口を照らしている。


「点てていただく立場で、何を無作法なことをと思われるかもしれませんが」

「いえ、そんなことは。なんでしょう」


言いよどんで。

口を開いて。

ゆっくり息を吸う。


「……もしよろしければ、ご一緒したいです」
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