小倉ひとつ。
はっきり私を捉えた静かな眼差しに、唇を引き結ぶ。


小さくこぼされた少し前と同じ希望は、優しく甘い。


ふたりきりなら。

このお茶席に私と瀧川さんしかいないから。


ふたりきりなら、お言葉に甘えてしまってもいいだろうか。


ひとりでいただくのは寂しい。


それに、瀧川さんに差し上げるときはともかく、その後私だけがいただく間は瀧川さんが手持ち無沙汰になるうえ、タイミングを揃えるために私は遠慮してお菓子だけご一緒したら、瀧川さんも困るだろう。


私のぶんのお茶も点ててしまった方が気を使わせない。


作法通りにする機会はこれからいくらでもある。稲やさんでもある。


普通お招きした側の亭主はご一緒しないけれど、でもきっと、今日みたいにふたりきりのお茶会は、そんなにない。


だから瀧川さんも、何度も一緒にって誘ってくださるんだろう。


さっきも今も、瀧川さんの作法をなぞらない提案を嫌だとは思わなかった。


度々ごめんね、おばあちゃん。やっぱり今だけ、ちょっとだけ目こぼししてください。
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