小倉ひとつ。
ふたりぶんが揃ったところで、片付けは後回しにして先にいただいてしまおう。お茶は温かい方が美味しい。


「瀧川さん」

「はい」

「その、もしお嫌でなければお隣に失礼してもよろしいですか」

「ええ、もちろん」


無礼講ついでに結構な勇気をかき集めてみた私に、瀧川さんは嬉しそうに笑ってくれた。


おかげで、広いお茶室で寂しいのでって子どもっぽい言い訳は言わずに済んだ。


「瀧川さんの練り切りはぬばたまですよね」


ぬばたまはあんこを胡麻で包んだもので、丸い滑らかな形をしている。ちょうど大きめの碁石みたいなイメージ。


上に少し散らされた金箔が、おめでたいお菓子らしさを醸し出している気がする。


「ええ。立花さんは福梅でしたよね?」

「はい」


なんとなく、可愛いお花と、懐紙の上に鎮座する黒をお互い見比べて。


「瀧川さん」

「はい」

「よろしければ半分こしませんか?」

「是非」
< 283 / 420 >

この作品をシェア

pagetop