小倉ひとつ。
『立花さん』


静かに名前を呼ばれた。


「はい」

『もしよろしければなのですが』


お嫌でしたら遠慮なくお断りくださいね、と前置きをして、瀧川さんは予想外の台詞を投げた。


『もしよろしければ、ご卒業のお祝いをさせてくださいませんか。なんでもごちそうします』

「えっ、よろしいんですか……!」


反射的に言いながら、自分で自分の声の大きさにおののいた。


思わず素でびっくりしたから、声が大きかったかもしれない。うるさかったらすみません。


『もちろんです』


えっ、え、と思っていたら、力強い肯定が返ってきた。即答が嬉しい。


「ありがとうございます……! 嬉しいです。瀧川さんがよろしければ是非」

『はい』


あれかな、たい焼きとか諸々のおかげかな。


ただの常連さんと店員だったら、気を遣って何かお祝いをくださるかもしれないけれど、ごちそうとまではおっしゃっていないに違いない。


うわあうわあ、稲中さん、レシピをご教授くださってありがとうございます……!


おばあちゃんも小さい頃から稲やさんに連れてってくれて、お茶教えてくれてありがとう……!

おかげさまであなたの孫は好きな人とお食事に行けることになりました。本当にありがとうありがとう。
< 319 / 420 >

この作品をシェア

pagetop