小倉ひとつ。
『はい、なんでもどうぞ。お祝いですから』

「ありがとうございます」


瀧川さんは、わがままと言う割に重くは受けとめていないんだろう。


明るい了承に、おそるおそる念押しする。


「……本当に、なんでもいいですか……?」

『ええ。本当に、なんでもいいですよ』

「ありがとうございます。……では、お言葉に甘えますけれど」


その。


「ランチとディナーの両方では、いけませんか」


逃れがたい沈黙が落ちた。きゅうときつく噛んだ唇が痛い。


駄目かな、失敗しちゃったかな。でも……!


「もちろん両方ごちそうしていただきたいということではありません。あまりにわがままを申し上げていることも分かっています。自分のぶんは自分でお支払いします」


沈黙が怖くて少しだけ早口になりながら、必死で言い募る。


「ですので、その、もしよろしければ、もしよろしければですが、」


先ほどの瀧川さんの言葉を繰り返す。


おねがい。お願いします。


「一日あいてらっしゃるなら——わがままを、言ってもいいのでしたら」


わたしに、わがままを。わがままを、言わせてください。
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