小倉ひとつ。
あなたの日常に携われたら、それだけでいいなんて嘘。


これは日常じゃない。お食事やたい焼き作りに誘ってもらえるのが日常だなんて、そんな贅沢な勘違いはしていない。


でも、だからこそ。あなたが歩み寄ってくれたぶんだけ、少しだけ、普通以上を望んでもいいですか。


「お食事をご一緒するだけではなくて……お嫌でなければ、お暇でしたら、瀧川さんのお時間を一日ぶんいただけないでしょうか」


瀧川さんは黙ったままだった。


随分前に閉じ込めたはずの恋心は、このところ、うるさく心音を加速させながら、私の中で大きさを増している。


「いつもランチかディナーのどちらかになってしまって、私としてはお話し足りなくて」


……お願いします。


「もしあいてらっしゃるなら、瀧川さんさえよろしければ、もっとたくさんお話したいなあと思いまして……」


お願いだから、どうかどうか、頷いて。


きつく握りしめたスマホの向こうで、瀧川さんが小さく小さく吐息を落とした。


『……あなたは。どうして、そういうことをおっしゃるんですか』
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