小倉ひとつ。
もったいない!? えええ……!?


面倒なこと……とは瀧川さんなら言わないかな、でも、耳ざわりよく言い換えて何かを言うにしても、手間がかかること、とかそういう感じだと思っていた。


もったいないなんて甘い変換がずるい。

意図してか素かは分からないけれど、私にはどうしても、ひどく考え抜かれた、甘やかな言葉選びに聞こえてしまう。


どうしたんですか瀧川さん……!


駄目だ混乱してる。全然頭が回らない。


でもええと、つまり、一日ってお願いを聞いてくださるってことだよね。


嬉しい。頑張って言ってみてよかった。


お祝いは形が残らない消えものがいいな。


買い物でもいいかと一瞬思ったけれど、瀧川さんは気配りができる優しい方なので、多分それだとさらっと何かしらお祝いをいただいてしまいそうな気がする。


お茶したらディナーが入らなくなってしまう。


時間が決まってるとある程度暇にならないし、前後で話題ができれば話もしやすいし、座れるなら疲れにくいし、無難に映画とか……?


「映画でもいいですか?」

『ええ、もちろんです。後で観たい映画を教えてください。それに合わせてお食事の時間も決めましょう』

「はい」


それでは、と切ろうとした瀧川さんを、あの、と慌てて呼びとめる。


「わがままを聞いてくださって、ありがとう、ございます」


すみませんって言うのは失礼な気がしたから、お礼だけ。


見えないのは分かっているけれど、思わず頭を下げた。
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