小倉ひとつ。
『いえ、全然わがままでは。こちらこそ、素敵なお誘いをありがとうございます』


よかった、声色が優しい。


瀧川さんはいつでもにこやかだから若干不安だけれど、迷惑ではないと信じたい。


「楽しみにしてます。映画、すぐ考えますね」

『はい、よろしくお願いします。ゆっくりで構いませんので、ご無理のないようお願いしますね』


はいと頷いたものの気が急いてしまって、お電話しながら早速、映画館の上映予定を調べ始めた。

連絡は早い方がいい。それに、あんまりにも楽しみなんだもの。


できれば見やすそうなジャンルがいいな。口コミが高いともっといい。

三つか二つくらい、候補が見つかるといいんだけれど。


『立花さん』

「はい」

『俺も、楽しみにしています』


なんだろうと首を傾げたら、そんな優しい言葉をくれたので。


「はい……!」


何度も何度も頷きつつ、ごめんくださいませ、と切り上げた。


瀧川さんは柔らかく、はい、ごめんください、と返してくれた。


恋愛要素が薄そうな映画を探して、伝記とかノンフィクションとかお堅めの内容のものをいくつか見繕って、それぞれURLを添付。


そのうちの一つに私としてはこちらが特に気になっています、と書き添えて連絡すると、『ではそちらにしましょうか』と上映時間の希望が三つ送られてきた。


その中から時間を選び、お店を決める。


ディナーはごちそうになってしまう。

お昼のお店については、瀧川さんがしてくださる前にせめてもと席だけ私が予約しておいた。
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