小倉ひとつ。
『どこ行きたいとか何したいとかあったら教えて』


サプライズは苦手だと言ったのを覚えていてくれたらしい。プレゼントは叶うなら希望を聞いてほしいタチである。


『覚えててくれたんだ。ありがとう』

『覚えてるよ。メモも取ったし、忘れないって言ったでしょう』


ちょっと拗ねたみたいな口調がおかしい。


『うん。ありがとう。私も忘れてないよ。覚えてるよ』

『ありがとう、楽しみにしてる。それで、何か希望ある?』


覚悟を決めて、会いたいです、と連絡をする。


『平日だから、一緒にケーキ食べられたら嬉しい』


悲しいことに、明日、誕生日の四月五日は、水曜日だった。


『夕ご飯は翌日に響きそう?』

『ちょっと心配かな』


まだお仕事を始めて一週間もしないうちに誕生日が来てしまうので、がっつり夜遅くなるのは不安がある。


勤務始め、週の初めから、奥さんは誕生花の小手毬を素敵な変形花器に生けてくださっている。


『分かった。じゃあ、仕事終わりにケーキくらいはごちそうさせて』

『ありがとう。行きたいお店考えておくね』


さらっとカフェに寄るくらいならそんなに遅くならないだろう。ケーキって言ったから、夜ご飯は別に食べるつもりってことだと思うし。


うん、よろしくね、と返事を寄越した要さんが。


『来年はケーキだけじゃなくて、ご飯でもなんでも、もっと盛大にお祝いさせてね』

『うん。ありがとう』


来年もいいんだ、と口元が緩む。約束が嬉しかった。
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