小倉ひとつ。
遅くなってごめんね、と袴を着ている成人式のときのお写真を見せてもらい、予想通りの素敵さにわいわい騒ぎ、お冷やを傾け、注文が届いて。


「稲やさんのお仕事はどう?」

「ありがたいことに、ほとんどいつも通りのお仕事にしていただいたの。新しいことはゆっくり覚えていってねって」

「それなら安心だな。よかったね」

「うん」


だから、と、責める色合いにならないように注意しながら、そうっと口を開く。


「あんまりよく分かってないんだけれど……やっぱり普通、新年度って忙しいものなの?」

「うん?」

「要さん、ずっとお持ち帰りだったから」


子どもっぽいのは分かっているけれど、勤務にかこつけて少しくらいお話できないかなあなんて思っていたのだ。


でも、今週は三日間ずっと小倉と胡麻に決め打ちしていたようで、朝はすぐに注文して背を向け、お昼も足早に受け取って帰ってしまった。


変なこと聞いてごめんね、とおずおず伺うと、ああ、と苦笑が返ってくる。


「もう散々話しかけちゃってるけど、お仕事中に声をかけるなんて、一番迷惑だと思われても仕方のないことでしょう。今はむしろかおりこそが大変な時期だし。だから、邪魔をしたくないなと思って」


それから。


「これは、笑ってくれると嬉しいんだけど」

「うん」


伏し目がちの目をそっと上げて、こちらを見つめる。ひどく切なげな表情をしていた。


「態度に、出そうだから」

「っ」

「年上なのに余裕なくてごめんね。舞い上がってるんだ」


……笑えるわけがなかった。
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