旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
「綺麗な音……」
私も中学生までピアノを習っていたけれど、さすがにグランドピアノは買ってもらえなくて、小さめの電子ピアノでしか弾けなかった。
といっても中学生にあがって部活や塾を始めたら、だんだん通うのが億劫になって辞めちゃったんだけど。
10年以上弾いていないけれど、鍵盤に手を添えるとどことなく覚えているもので、久しぶりに弾きたいかも、と好奇心が湧き上がる。
あ……そうだ。
先ほど拾った楽譜に目を通し、読みながらゆっくり鍵盤をひとつひとつ押す。
目の前の楽譜に書かれた曲名は『ゴルトベルク変奏曲 アリア』。言わずと知れた音楽家、バッハの曲の中でも有名な曲だ。
かろうじて楽譜は読めるけれど、久しぶりに弾くと、やっぱり難しいかも。
ゆったりとした曲を、ぎこちない手つきで弾く。
けれどそのピアノの音色は、澄んだ美しさの中にしっかりとした重さを持ち、部屋の中をあっという間に埋め尽くした。
この部屋の空気に、ピアノの音。それらに包まれるようで、心地いい。
穏やかになる心に、ピアノを弾き続けていると、突然バン!とドアが開く。
「わっ!」
その音にはっと我に返り手を止めると、目の前に立つのは、寝起きらしくシワのついたワイシャツをボタン3つ開けた玲央さんだった。