旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
「当時私は、玲央坊ちゃんがよく通われていた音楽スタジオの近くのお店で働いておりまして。幼い頃から練習後や演奏会後によく顔を見せては、楽しくピアノの話を聞かせてくださったものです」
話しながら幼い頃のことを思い出しているのか、長谷川さんは少し嬉しそうに笑う。
幼い頃から玲央さんを知って……あ、だから『坊ちゃん』なんだ。
「ですがある時からぱったり姿を見せなくなってしまって……代わりに聞いた噂は『天才ピアニストの立花玲央が手の故障で引退した』というものでした」
手の故障で、引退……。
7年前ということは、彼はまだ23歳。これからまだ、どんどんと伸びていけただろう。
いつしか国内でも名前を聞くようになって、私は彼の名前を『ピアニスト』として聞いているような、そんな未来があったかもしれない。
けど、それらは全て失われてしまったんだ。
「それから2年が経ち、再びお店にいらっしゃった玲央坊ちゃんは、聞けばお父様のご紹介でホテルオーナーとして経営の勉強を始めたとのことで。『ピアノはもう一切辞めた』と」
「……そんなに、あっさりと?」
「あっさりと辞めるよう、心に命じていたんだと思います。『仕方ないことだ』と言う坊ちゃんは、火が消えたようでしたから」
長谷川さんのその静かなひと言に、自分でたずねておいて、なんてバカなことを聞いてしまったんだろうと思った。