旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
そう、だよね。
それまで何年、十何年とピアノを弾いて生きてきた人がそれをいきなり失って、『なら仕方ない』とあっさり捨てられるわけもない。
あのピアノは彼にとって、つらい思い出だった?
だから、さっき玲央さんは怒ったんだ。
なにも知らない人間が、軽々しく触れていいものじゃなかった。
自分がしたことの大きさを今更思い知り、私はぐっと拳をにぎる。
「……長谷川さん、なにか買ってくるものありませんか?私、ちょっと頭冷やしにおつかい行ってきます」
「え?でももうすぐ暗くなってしまいますよ?」
「大丈夫です。ちょっと、自己嫌悪っていうか……玲央さんにどう謝ろうか、ひとりで考えたいので」
へへ、と苦笑いをこぼすと、最初は少し戸惑った長谷川さんも、私の気持ちを汲むように頷く。
「では、コンビニで牛乳を買ってきていただけますか?それを使っていちごのデザートをお作りしますので、ふたりで食べれば仲直りできますよ」
「ありがとうございます」
立ち上がり、長谷川さんに小さく礼をしてその場を歩き出すと、私は財布を手にして、家を出た。