旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
『触るな』
そう言った玲央さんの目は、冷たくて、初めて見る表情だと思った。
私が知らなかった、彼の顔。
だけど知らなかったからと言って、なにをしても許されるわけじゃない。
誰しも、触れてほしくないものが心にあること、分かっていたのに。
「……謝らなくちゃ」
ぼそ、とつぶやいた自分の小さな声が、薄暗い路地に響いた。
立花家から徒歩10分ほどの位置にあるコンビニを目指し、私は静かな住宅街の中の路地を、ひとり歩く。
辺りの家々にあかりがつき始める時間。空はとっくに日が沈み、夜空となってしまっている。
帰る頃には玲央さんも起きてくるかな。
顔を合わせたら、まず謝って……、と頭の中でシミュレーションをするように彼の顔を思い浮かべると、それとともに思い出されたのは先ほど言われたひと言。
『言われたこと以外勝手なことをするな』
……怒らせたってことばかりが気にかかっていたけれど、改めて思うと、そのひと言によって私と彼の関係がしっかりと線引きされた気がした。
そう、だよね。私は彼に言われたことだけを聞いていればいい。
私は玲央さんに拾ってもらった身で、それも、彼にとっては同情だとか、客としてのよしみのようなもので。
だからこそ生まれた関係は、対等じゃない。その考えは間違っていない。
なのにどうして、胸はズキ、と小さく痛むのだろう。