長い夜には手をとって
お湯を沸かして急須でお茶をいれる。湯気が立って香りが広がるのを、東さんは椅子に座ってぼーっと見ているようだった。
「どうでしたか、伊織君は?」
自分の分もコップを用意して、私も椅子に座る。東さんはそやな、と話しかけて、片手でごしごしと顔を拭った。
「・・・ま、悪い子ちゃうみたいやな」
――――――うん。・・・それだけ?
私は思わず瞬きを繰り返す。
「え、え?東さんたら4時間もあの人を拘束して飲ませまくって、それだけですか?」
あの人、のところで布団の上でのびきっている伊織君を指差す。東さんは、お茶を飲みながら言った。
「あー、美味しいわ、熱くて。やっぱり冬は熱いお茶がええなあ~。・・・ほんでな、いい人間なんか滅多におらんのやで、凪子ちゃん。皆どっか腹黒いところやえげつない面だって持ってるもんや。だから、悪くなかったらそれで上等なんや。色々話したしな、まあおっちゃんは認める。とにかく綾ちゃんが帰ってくるまでは、凪子ちゃんのこと宜しく頼むで~ってゆーといたわ」
「・・・あ、そうなんですか」
悪くなかったらそれで上等・・・。ちょっと頭に残るフレーズだ。私は一人で頷く。
「とにかく綾ちゃんのこと、進展があったらこっちにも知らせてな。おっちゃんにとったらあんたらは娘みたいなもんやて、やっぱり心配やわ」
「はい。それは必ず。・・・あの、東さん、ありがとうございます」
かなりの勝手をしたのだ。今までよくしてくれたこのオーナーに相談なしに。私は座ったままだけど頭を下げる。