長い夜には手をとって


 東さんはにこっと笑って、さて、と言う。

「ほな行くわな。悪いけど凪子ちゃんタクシー呼んでくれるか?今泊まってるホテルは結構近いねんけど、寒いし乗っていくわ」

 はい、と私は携帯を手に取る。電話している間に、東さんはもう一杯お茶を飲んで立ち上がった。

「そうや、そこの紙袋、カナダのお土産。食べ物やから二人で分け分けしーやー」

「ありがとうございます!わーい、カナダのお土産!何だろ何だろ」

「カナダゆーたらメープルシロップやろ~。それとシロップ入りのえらい甘いチョコレート。あれはえぐいで~歯溶けるで~」

 東さんは体全部を使って甘さを表現する。私は思わず笑ってしまった。そうだそうだ、いつもこんな楽しい人だった。

 ほなな、と簡単な挨拶をして、東さんは帰って行った。路地を抜けてタクシーに乗り、きっとまた運転手さんにベラベラと色んなことを喋るのだろう。私はそれを想像しながら笑う。そして部屋に上がり、伊織君にかけ布団と毛布をかけて、電気を消した。

 明日、伊織君にも東さんの話を聞こうっと。



 やっぱり二日酔いになったらしい。

 それも強烈なやつに。

 私が朝起きて下へ降りると、真っ青な顔をして唸りながら水を飲む伊織君がいた。

「おはよー。・・・大丈夫?」

 彼はしかめっ面のままで首を振る。私の声が頭に響いたようだ。ちょっと声を落としてとジェスチャーで言ってくる。


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