長い夜には手をとって


 夕方には多少マシになったようだった。伊織君が、ミネラルウォーター全部飲んじゃったから、悪いけど買ってきて、とメールを寄越したので数回やり取りをしてそれが判った。

 夕方までかかったのかー。私は電車から降りてスーパーで買い物をしている間、それを思って伊織君に同情する。東さんたら、一体どれだけ飲ましたのよ・・・。

 家に帰ると彼はしゃんと起きていて、一階中にコーヒーの匂いが充満していた。

「ただいまー。うわー、凄いコーヒーの匂い」

「あ、お帰り。俺今からお代わりするけど凪子さんも飲む?」

 伊織君が台所で振り返る。私は苦笑して首を振り、彼のところへ歩いていってスーパーの袋から水を取り出した。

「カフェイン取りすぎでしょ。これにしときなさい」

「・・・水はコーヒーの味はしないんだよ」

「当たり前でしょ」

 ほらほらと言うと、彼は残念そうな顔をしてコーヒー缶の蓋を閉めた。

「もうご飯するからさ。昨日の、東さんとの話聞かせてよ」

「あ、うん。・・・それにしてもあの人、ざるだねー。どんどん飲むんだよ。顔色一つ変えないで」

「伊織君てお酒弱いの?」

「いや、そうでもないと思うけど。あの人が強すぎるんだよ。それに話が一々面白くてさ、肴をすすめるのもうまいから、つい飲んじゃって・・・」

 手を洗って食事の支度をする。今日は会社であまりおやつを食べなかったから、私はお腹が空いていた。私が料理している間、後ろで食卓の準備をしながら、伊織君は東さんが言った言葉を教えてくれる。


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